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最高裁判所第一小法廷 昭和58年(行ツ)127号 判決 1988年1月21日

上告人

藤山正己

外九名

右一〇名訴訟代理人弁護士

森川金寿

柳沼八郎

立木豊地

高橋清一

尾山宏

林健一郎

石井将

谷川宮太郎

佐伯静治

戸田謙

芦田浩志

重松蕃

新井章

雪入益見

北野昭式

藤本正

深田和之

被上告人

佐賀県教育委員会

右代表者教育委員長

志岐常文

右訴訟代理人弁護士

安永沢太

国府敏男

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人森川金寿、同柳沼八郎、同立木豊地、同高橋清一、同尾山宏、同林健一郎、同石井将、同谷川宮太郎の上告理由第二点第一章について

地方公務員法三七条一項の規定が憲法二八条の規定に違反するものでないことは、当裁判所の判例(昭和四四年(あ)第一二七五号同五一年五月二一日大法廷判決・刑集三〇巻五号一一七八頁)とするところであり、これと同旨の原審の判断は正当である。論旨は、採用することができない。

同第一点第一章及び第二章の一並びに第二点第二章について

本件休暇闘争及び本件懲戒処分の事実関係に関する原審の認定は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができる。右事実関係のもとにおいて、本件休暇闘争が地方公務員法三七条一項の規定に違反するとし、また、本件懲戒処分の手続に不公正な点はなく、本件懲戒処分は平等の原則に反していないとした原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。本件休暇闘争当時佐賀県において地方公務員の労働基本権の制約に対する代償措置がその本来の機能を喪失していたものということができないことは、原判示のとおりであるから、右代償措置が本来の機能を喪失していたことを前提とする所論違憲の主張は、その前提を欠く。論旨は、いずれも採用することができない。

同第一点第二章の二及び第二点第三章について

地方公務員が争議行為を行つた場合には、地方公務員法三七条一項の規定に違反するものとして同法二九条一項の規定による懲戒処分の対象とされることを免れないものと解すべきであり、同項の規定の適用に当たり、同法三七条一項の規定により禁止される争議行為とそうでないものとの区別を設け、更に、右規定に違反し違法とされる争議行為に違法性の強いものと弱いものとの区別を立てて、右規定違反として同法二九条一項の規定により懲戒処分をすることができるのはそのうち違法性の強い争議行為に限るべきものと解することはできない(前掲大法廷判決及び最高裁昭和四七年(行ツ)第五二号同五二年一二月一〇日第三小法廷判決・民集三一巻七号一一〇一頁参照)。これと同旨の原審の判断は正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。

同第二点第四章について

地方公務員に懲戒事由がある場合において懲戒権者が裁量権の行使としてした懲戒処分は、それが社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権を付与した目的を逸脱し、これを濫用したものと認められる場合でない限り違法とならないものと解すべきである(前掲最高裁第三小法廷判決参照)。

本件についてみるに、原審の確定した事実関係に徴すると、本件休暇闘争を行つた佐賀県教職員組合の組合員の心情には酌むべき点が存するといわなければならないが、佐賀県は、当時、極度の財政逼迫状態にあり、赤字団体として地方財政再建促進特別措置法に則り財政の再建を行おうとしていたものであり、給与の遅払い、定数削減、定期昇給・昇格発令延伸、昇給差額放棄等の措置も、右のような財政事情のもとでやむなくとられたものであること、本件休暇闘争は三日間にわたり、三日間で県下小中学校の教職員の延べ約八割七分にも及ぶ約五二〇〇名が参加して行われたものであり、それが教科の進度に遅れを生じさせ、児童生徒に精神的な不安、動揺を与えたことは否定できないこと、上告人らはそれぞれ、佐賀県教職員組合の役員として、本件休暇闘争を企画し又はその遂行を指導推進したものであることなど原判示の諸事情を考慮すれば、本件懲戒処分はいまだ社会観念上著しく妥当を欠くものとまでは認められず、本件懲戒処分が懲戒権者にゆだねられた裁量権の範囲を超え、これを濫用したものということはできない。これと同旨の原審の判断は正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。

よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官佐藤哲郎 裁判官角田禮次郎 裁判官髙島益郎 裁判官大内恒夫 裁判官四ツ谷巖)

上告代理人森川金寿、同柳沼八郎、同立木豊地、同高橋清一、同尾山宏、同林健一郎、同石井将、同谷川宮太郎の上告理由<省略>

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